「養育費について公正証書を作りたいけれど、何から始めればいい?」
「どこの公証役場に行けばいい?」
「費用はいくらかかるの?」
養育費について父母で合意できている場合には、その内容を公正証書にしておく方法があります。
一定の金銭の支払いについて、強制執行を受けても異議がない旨を定めた公正証書を作成しておけば、相手が養育費を支払わなくなった場合に、改めて訴訟で支払いを命じてもらうことなく強制執行を申し立てることができます。
この記事では、養育費の公正証書を作るまでの流れ、必要書類、費用、作成するときに確認しておきたいポイントをわかりやすく解説します。
養育費の公正証書とは
公正証書とは、公証人が法律に基づいて作成する公文書です。
養育費について公正証書を作成する場合には、父母が合意した養育費の金額や支払期間、支払方法などを公正証書に記載します。
特に重要なのが、養育費が支払われなかった場合の強制執行についての定めです。
一定額の金銭を支払うことと、支払いがなかった場合に強制執行を受けても異議がない旨を公正証書に記載しておけば、未払いが発生した場合に強制執行の根拠にすることができます。
そのため、長期間にわたって養育費を受け取る予定がある場合には、公正証書を作成しておくことが未払いへの備えになります。
公正証書がなくても養育費は取り決められる
養育費は、公正証書を作らなければ取り決められないわけではありません。
父母間で話し合い、合意書や離婚協議書に養育費について記載する方法もあります。
また、2026年4月1日からは、一定の養育費について、父母間の合意書面による取り決めがある場合でも、先取特権に基づく差押えを申し立てられる制度が始まりました。先取特権が認められる額は、子ども1人につき月額8万円が上限です。
ただし、これは「合意書が公正証書とまったく同じ効力を持つようになった」という意味ではありません。
調停調書や一定の要件を満たした公正証書などの債務名義がある場合には、取り決めた養育費の全額について強制執行を申し立てることができます。一方、新しい先取特権による担保権実行には上限があります。
そのため、公正証書を作るかどうかは、養育費の金額や支払期間、相手との関係などを踏まえて検討しましょう。
養育費の公正証書に記載しておきたい内容
公正証書を作成する前に、父母で養育費の内容について話し合っておきます。
主に確認しておきたいのは次の項目です。
・養育費の月額
・支払いを開始する時期
・支払いを終了する時期
・毎月の支払日
・振込先
・振込手数料を誰が負担するか
・進学や医療など特別な費用の負担
・事情が変わった場合の協議方法
・強制執行についての認諾条項
特に、支払終了時期については「成人するまで」だけではなく、「満20歳に達する月まで」「大学を卒業する月まで」など、父母が合意した内容をできるだけ明確にしておくことが大切です。
強制執行認諾条項とは
養育費の公正証書で重要なのが、強制執行についての認諾条項です。
これは簡単にいうと、
「約束した金銭を支払わない場合には、強制執行を受けても異議はありません」
という趣旨の内容です。
一定額の金銭支払いの合意と、この強制執行認諾の内容を公正証書に記載することで、未払い時に裁判手続きを経ることなく強制執行を申し立てられるようになります。
単に「養育費を毎月5万円支払う」と公正証書に記載しただけで、どのような場合でも直ちに強制執行できるとは限らないため、作成時には公証人に確認しましょう。
養育費の公正証書を作る流れ
STEP1 養育費の条件について合意する
まず父母の間で養育費について合意します。
公証人が養育費の適正額を決めてくれるわけではありません。日本公証人連合会も、公正証書は当事者の合意を記載して作成するものであり、公証人が養育費を算定するものではないと案内しています。
そのため、公証役場に相談する前に、
・毎月いくら支払うか
・いつからいつまで支払うか
・毎月何日に支払うか
・特別な教育費や医療費をどうするか
などについて、できる範囲で話し合っておきましょう。
養育費の目安がわからない場合には、裁判所の養育費・婚姻費用算定表や、当サイトの養育費計算ツールで確認できます。
STEP2 公証役場に相談する
合意内容がある程度決まったら、公証役場へ問い合わせます。
日本公証人連合会のウェブサイトから全国の公証役場を確認できます。
公証役場に、
「離婚に伴う養育費について公正証書を作りたい」
と伝え、今後の手続きや必要資料を確認します。
この段階で、
・夫婦の氏名や住所
・子どもの氏名や生年月日
・養育費の金額
・支払期間
・財産分与や慰謝料など他の取り決めがあるか
などを確認される場合があります。
離婚協議書や合意内容をまとめた文書がすでにある場合には、それを公証役場に提出すると手続きが進めやすくなります。
STEP3 公証人と公正証書の内容を確認する
提出した資料や父母の合意内容をもとに、公証人が公正証書の案を作成します。
内容が送られてきたら、
・養育費の金額
・支払期間
・子どもの氏名
・振込先
・特別費用
・強制執行についての記載
などに間違いがないか確認します。
不明点や修正したい部分がある場合には、公正証書を完成させる前に公証役場へ伝えましょう。
STEP4 必要書類を準備する
必要な資料は、公正証書の内容や本人が手続きするか代理人を利用するかによって異なります。
本人が公正証書を作成する場合の本人確認資料について、日本公証人連合会は、たとえば次のような組み合わせを案内しています。
・印鑑登録証明書と実印
・運転免許証と認印
・マイナンバーカードと認印
・パスポートなど所定の本人確認書類と認印
このほか、離婚や子どもとの関係を確認するための戸籍謄本などを求められる場合があります。
公正証書の内容によって必要書類が異なるため、インターネット上の記事だけを見て準備するのではなく、実際に依頼する公証役場へ事前に確認してください。
STEP5 公証役場で公正証書を作成する
内容と必要書類の準備が整ったら、公証役場で公正証書を作成します。
本人が手続きをする場合には、公証人が本人確認を行い、内容を確認したうえで公正証書を完成させます。
必ず夫婦2人が同じ日に公証役場へ行かなければならないとは限りません。
公正証書の種類によっては代理人を利用することも可能で、日本公証人連合会も、一定の場合を除き、本人から委任を受けた代理人による公正証書作成が可能と案内しています。
代理人を利用する場合には委任状など追加の資料が必要になります。
STEP6 公正証書を受け取って保管する
公正証書が完成したら、正本や謄本など必要な書類を受け取ります。
将来、養育費が未払いとなり強制執行を行う場合に必要になることがあるため、紛失しないよう大切に保管してください。
強制執行に備える場合には、どの書類を受け取っておく必要があるかも公証役場で確認しておくと安心です。
公正証書の作成にはどれくらいかかる?
「公正証書は1か月で完成する」と決まっているわけではありません。
私が実務で関わったケースでは、合意内容がすでに決まっている場合でも、公証人とのやり取りや内容確認、日程調整などがあり、完成まである程度時間がかかるケースがありました。
特に、
・養育費の条件がまだ決まっていない
・財産分与や慰謝料も一緒に取り決める
・何度も案を修正する
・公証役場が混雑している
といった場合には時間がかかります。
離婚届を提出する前に公正証書を作りたい場合には、離婚予定日の直前ではなく、余裕を持って公証役場へ相談しておくことをおすすめします。
弁護士などの代理人を利用する場合
公正証書の作成手続きを代理人へ依頼できる場合があります。
ただし、「弁護士に依頼すれば必ず本人は一度も公証役場に行かなくてよい」と一律に考えるのではなく、具体的な公正証書の内容や公証役場の案内を確認しましょう。
代理人によって公正証書を作成する場合には、本人から代理人への委任状などが必要になります。
また、養育費の金額や財産分与などの条件そのものについて相手と合意できていない場合には、公証人が交渉を代わりに行ってくれるわけではありません。
相手との条件交渉まで必要な場合には、弁護士への相談を検討する方法があります。
養育費の公正証書にかかる費用
公正証書を作成する場合には、公証人の手数料がかかります。
手数料は、養育費の金額や支払期間、財産分与や慰謝料など他の給付も公正証書に含めるかによって変わります。
養育費のように継続して支払う定期給付について、日本公証人連合会は、目的価額を計算する際の支払期間の上限を5年分としています。
たとえば月5万円の養育費を長期間支払う取り決めであっても、養育費部分についての目的価額を考える際には、
5万円 × 12か月 × 5年 = 300万円
が一つの計算の基礎になります。
ただし、公正証書に財産分与や慰謝料なども含める場合には、それぞれが別の法律行為として手数料が計算されることがあります。
正確な手数料は、公正証書の内容を伝えたうえで公証役場に確認してください。
自分で公証役場に相談するか、専門家に依頼するか
公正証書は、必ず弁護士へ依頼しなければ作れないわけではありません。
父母ですでに養育費の金額や条件について合意できているのであれば、自分たちで公証役場に相談して作成することもできます。
一方、
・養育費の金額で揉めている
・財産分与や慰謝料も一緒に決めたい
・相手と直接やり取りしたくない
・条項の内容について不安がある
・高額な金銭の支払いがある
といった場合には、弁護士などの専門家への相談を検討してもよいでしょう。
大切なのは、「自分で作るか弁護士に頼むか」ではなく、離婚後にトラブルにならない内容で取り決めることです。
離婚後でも公正証書は作れる
離婚届を提出した後でも、元配偶者と養育費について合意できれば公正証書を作成することは可能です。
ただし、離婚後は相手が話し合いに応じなくなったり、連絡が取りにくくなったりする場合があります。
すでに離婚条件について話し合えているのであれば、離婚前に公正証書の作成まで進めておく方法も検討しましょう。
一方、相手が公正証書の作成自体に同意しない場合には、一方だけで養育費の公正証書を作ることはできません。
その場合には、家庭裁判所の養育費請求調停など別の方法を検討します。
公正証書を作った後に養育費を変更できる?
公正証書を作成したからといって、その後一切養育費の金額を変更できないわけではありません。
収入が大きく変わった、子どもの状況が変わったなどの事情がある場合には、父母で養育費の変更について話し合うことができます。
双方が合意できれば新しい内容を書面化する方法があります。
一方、変更について合意できない場合には、家庭裁判所に養育費の増額や減額を求める調停を申し立てる方法があります。
よくある質問
Q. 相手が公証役場に行きたくないと言っています
一定の場合には代理人による公正証書作成も可能です。
ただし、相手が養育費の条件や公正証書を作成すること自体に同意していない場合には、代理人を立てれば一方的に公正証書を作れるというものではありません。
話し合いがまとまらない場合には、養育費請求調停などを検討します。
Q. 公正証書を作るまで何日くらいかかりますか?
決まった期間はありません。
合意内容、公証役場の混雑状況、必要書類の準備、原案の修正などによって異なります。
離婚前に完成させたい場合には、早めに公証役場へ相談しておきましょう。
Q. 公正証書がなくても養育費を請求できますか?
できます。
養育費について父母間で話し合ったり、家庭裁判所の調停を利用したりすることができます。
また、2026年4月1日以降に発生する一定の養育費については、父母間の合意書面による取り決めでも、月額8万円×子どもの人数を上限とした先取特権による差押えを利用できる場合があります。
Q. 公正証書があれば必ず養育費を回収できますか?
公正証書があるからといって、自動的に養育費が振り込まれるわけではありません。
未払いが発生した場合には、裁判所へ強制執行を申し立てるなどの手続きが必要です。
また、給与を差し押さえる場合には勤務先、預貯金を差し押さえる場合には金融機関など、対象となる財産についての情報が必要になることがあります。
Q. 養育費の金額は公証人が決めてくれますか?
公証人が養育費の金額を決めるわけではありません。
公正証書は、基本的に父母が合意した内容を公証人が公文書として作成するものです。養育費の金額で合意できない場合には、家庭裁判所の調停などを検討します。
まとめ
養育費について父母で合意できている場合には、公正証書にしておくことで将来の未払いに備えることができます。
作成するときは、養育費の月額だけではなく、支払開始時期、終了時期、支払日、特別費用などについてもできるだけ具体的に決めておきましょう。
一定額の金銭支払いと強制執行認諾について定めた公正証書であれば、未払いが発生した場合に裁判手続きを経ずに強制執行を申し立てることができます。
一方、2026年4月からは、父母間の合意書面による養育費についても一定額まで先取特権による差押えが可能になっています。公正証書と合意書では利用できる回収方法が異なるため、それぞれの違いを理解して選ぶことが大切です。
まずは養育費の金額や支払期間などを整理し、合意できている場合には公証役場へ相談してみましょう。

