「養育費を取り決めたのに払ってもらえない」
「何度連絡しても無視される」
「給与や銀行口座を差し押さえることはできる?」
養育費について法的な取り決めがあるにもかかわらず支払いが続かない場合には、強制執行を検討できることがあります。
強制執行とは、裁判所を通じて相手の給与や預貯金などの財産を差し押さえ、未払いの養育費を回収する手続きです。
この記事では、養育費の強制執行でどのような財産を差し押さえられるのか、給与差し押さえと預貯金差し押さえの違い、手続きの流れについて解説します。
養育費の強制執行とは
養育費の強制執行は、相手が取り決めた養育費を支払わない場合に、裁判所を通じて相手の財産から回収する手続きです。
代表的な対象には、
- 給与
- 預貯金
- 売掛金などの債権
- 不動産
などがあります。
ただし、どの財産を差し押さえるのが適しているかは、相手の職業や財産状況によって異なります。
養育費でよく使われる差し押さえ
| 差し押さえの対象 | 特徴 |
|---|---|
| 給与 | 勤務先がわかっている場合に検討しやすい |
| 預貯金 | 銀行や支店などの情報が必要になる |
| 売掛金など | 自営業者などの場合に対象になることがある |
| 不動産 | 手続きが大きく、費用や時間もかかりやすい |
養育費では、会社員など給与所得がある相手に対する給与差し押さえが利用されることがあります。
給与を差し押さえるとどうなる?
相手の勤務先に対して差押命令が送られると、一定の範囲で給与から養育費を回収できる場合があります。
養育費などの扶養義務に基づく定期金債権については、一般の金銭債権とは異なる特例があります。
一定の要件を満たす場合には、すでに支払期限が来ている未払い分だけでなく、将来支払期限が到来する養育費についても継続して差し押さえの対象とできることがあります。
そのため、相手が同じ勤務先で働き続けている場合には、毎月の養育費を継続的に回収できる可能性があります。
ただし、相手が退職した場合には、その勤務先からの給与は発生しなくなるため、新しい勤務先が判明した後に改めて手続きを検討する必要があります。
預貯金を差し押さえるとどうなる?
相手名義の銀行口座に預金がある場合には、預貯金を差し押さえて未払い養育費を回収できることがあります。
ただし、給与差し押さえと違って、預貯金差し押さえは原則として差押命令が届いた時点の預金を対象とします。
そのため、
- 残高が少ない
- すでに引き出されている
- 想定していた口座を使っていない
といった場合には、十分に回収できないことがあります。
給与差し押さえと預貯金差し押さえはどちらがいい?
どちらが適しているかは相手の状況によります。
給与差し押さえが向いているケース
- 相手が会社員などで給与を受け取っている
- 勤務先がわかっている
- 今後の養育費も継続して回収したい
預貯金差し押さえを検討するケース
- 相手の勤務先がわからない
- 預金がある金融機関がわかっている
- まとまった未払い養育費がある
必ずどちらか一方だけを利用するというものではありません。
相手の財産状況などによって複数の方法を検討することがあります。
強制執行には何が必要?
一般的な強制執行では、まず強制執行の根拠になる書類が必要です。
代表的なものには、
- 調停調書
- 審判書
- 判決
- 一定の要件を満たした公正証書
などがあります。
こうした強制執行の根拠になる文書を「債務名義」と呼びます。
公正証書の場合には、強制執行認諾文言が入っているかなど内容を確認する必要があります。
2026年4月から養育費の回収制度が変わった
2026年4月1日から、養育費の回収に関する新しい制度が始まりました。
養育費の先取特権
一定の要件を満たす養育費については、父母間の書面による取り決めがある場合などに、養育費の先取特権を利用して相手の財産から回収できる制度が設けられています。
この制度では、子ども1人につき月額8万円を上限として先取特権が認められます。
ただし、これは
「養育費は8万円までしか請求できない」
「通常の強制執行は8万円までしかできない」
という意味ではありません。
あくまで、この新しい先取特権を利用して回収する場合の上限です。
法定養育費
2026年4月1日以降に離婚し、養育費について具体的な取り決めがない場合には、一定の要件のもとで子ども1人につき月額2万円の法定養育費を請求できる制度も始まっています。
この法定養育費についても、一定の要件のもとで回収手続きを検討できる場合があります。
強制執行の大まかな流れ
STEP1 手元の書類を確認する
まず、
- 調停調書
- 審判書
- 判決
- 公正証書
- 養育費についての合意書
など、どのような書類を持っているか確認します。
書類によって利用できる手続きが異なります。
STEP2 相手の財産を確認する
差し押さえをするためには、原則として対象となる財産を特定する必要があります。
たとえば、
- 給与なら勤務先
- 預貯金なら金融機関など
- 売掛金なら取引先
といった情報が必要になることがあります。
STEP3 裁判所に申し立てる
必要書類をそろえて、管轄する裁判所に申立てを行います。
どの裁判所に申し立てるかや必要書類は、差し押さえる財産や手続きの種類によって異なります。
そのため、実際に申し立てる際には裁判所の最新案内を確認してください。
STEP4 差押命令が送達される
申立てが認められると、裁判所から勤務先や金融機関などの第三債務者に差押命令が送られます。
給与差し押さえの場合には勤務先に通知されるため、相手の勤務先にも差し押さえの事実が知られることになります。
STEP5 取り立て・回収を行う
差押命令が出ただけで裁判所から自動的にお金が振り込まれるとは限りません。
手続きに応じて、勤務先や金融機関などから取り立てを行い、回収することになります。
相手の勤務先や財産がわからない場合
「相手の勤務先がわからない」
「どこの銀行を使っているかわからない」
というケースもあります。
現在は一定の要件を満たす場合に、裁判所の財産開示手続や第三者からの情報取得手続を利用できることがあります。
財産開示手続
債務者本人に裁判所へ出頭してもらい、自分の財産について陳述を求める手続きです。
第三者からの情報取得手続
一定の要件を満たす場合には、裁判所を通じて第三者から相手の財産に関する情報を取得できる制度があります。
たとえば、勤務先に関する情報や預貯金に関する情報などを取得できる場合があります。
ただし、取得できる情報や利用条件は手続きごとに異なります。
「誰でも簡単に相手の銀行口座や勤務先を全部調べられる」という制度ではありません。
相手が自営業の場合
相手が個人事業主の場合には、会社員のような給与がないため、一般的な給与差し押さえはできません。
その場合には、
- 預貯金
- 取引先に対する売掛金など
- その他の財産
を対象にできないか検討します。
ただし、売掛金などを差し押さえるためには、相手の取引先や債権の内容を特定する必要があるため、会社員の給与差し押さえより難しくなる場合があります。
相手が会社役員の場合
会社役員が会社から役員報酬を受け取っている場合には、その報酬が差し押さえの対象になることがあります。
ただし、勤務形態や報酬の内容によって扱いが異なることがあるため、個別に確認が必要です。
実務で感じた養育費の強制執行のリアル
給与差し押さえは勤務先がわかるかが重要
私が養育費に関する実務に携わる中でも、給与差し押さえを検討する際に大きなポイントになったのが、相手の勤務先がわかっているかどうかでした。
相手が長く同じ会社で働いている場合には、給与を対象とした回収を検討しやすい一方、転職を繰り返しているケースでは新しい勤務先を確認する必要が出てきます。
預貯金は残高がなければ回収できない
銀行口座がわかっていても、そこに十分な預金があるとは限りません。
差し押さえをしてみたものの、預金残高が少なく、期待していた金額を回収できない場合もあります。
そのため、「口座がわかっているから必ず回収できる」とは考えない方がよいでしょう。
自分で強制執行できる?
強制執行は、必ず弁護士に依頼しなければならない手続きではありません。
自分で申し立てることも可能です。
ただし、
- どの書類が必要かわからない
- 相手の勤務先や財産がわからない
- 未払い額が大きい
- 複数の財産を差し押さえたい
- 新しい養育費の回収制度との関係がわからない
といった場合には、裁判所の案内を確認したり、弁護士などの専門家に相談したりする方法があります。
よくある質問
Q. 給与を差し押さえると勤務先に知られますか?
はい。
給与差し押さえでは、裁判所から勤務先に差押命令が送られるため、勤務先は差し押さえの事実を知ることになります。
Q. 相手が転職したらどうなりますか?
以前の勤務先から給与が支払われなくなるため、その勤務先への差し押さえでは継続して回収できません。
新しい勤務先が判明した場合には、改めて差し押さえを検討することになります。
Q. 銀行口座の残高が0円だったら?
差し押さえた時点で対象となる預金がなければ、その口座から回収することはできません。
別の財産を対象にできないか検討することになります。
Q. 相手が自営業でも強制執行できますか?
給与差し押さえ以外の方法を検討できます。
預貯金や売掛金など、差し押さえ可能な財産があれば対象にできる場合があります。
Q. 調停調書があればすぐに差し押さえできますか?
調停調書は強制執行の根拠になりますが、実際の申立てには必要書類や相手の財産情報などが必要です。
具体的な手続きについては、裁判所の案内を確認してください。
まとめ
養育費が支払われない場合には、一定の条件を満たせば、給与や預貯金などに対する強制執行を利用できることがあります。
会社員で勤務先がわかっている場合には給与差し押さえ、預貯金の情報がわかっている場合には口座差し押さえなどを検討します。
ただし、差し押さえる財産によって必要な情報や手続きは異なります。
また、2026年4月からは、養育費の先取特権や法定養育費など、新しい回収制度も始まっています。
まずは自分が持っている公正証書や調停調書などの書類を確認し、未払い額と相手の財産状況を整理することが大切です。
どの手続きを利用できるかわからない場合には、裁判所の最新情報を確認し、必要に応じて専門家への相談も検討してください。

